高額所得者の中には耳にしたことがある方も多いかと思いますが、令和2年の税制改正で一部封じ込められた節税策として有名です。
それでも、人によっては今なお有効な可能性があるため、この節税スキームについてご説明します。
節税スキームの概要
この方法は、高額所得者にとって非常にメリットのある節税策として、2020年度の税制改正大綱で封じ込められるまで広く活用されていました。
具体的には、海外不動産から大きな赤字を発生させ、他の所得と相殺するという方法です。
「赤字が出る=損をするのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実際には何も損をしていないけれど、損を発生させる方法があります。
そのポイントが「減価償却費」です。
海外不動産でなければならない理由
このスキームは日本の不動産でも行うことができないわけではないですが、日本の市場環境においては難しいことが多いです。
海外不動産でなければならない理由がいくつかあります。
理由1:土地割合が小さく、建物割合が大きくなければならない
理由2:築年数が長い建物であるほど価値が高くならなければならない
土地建物割合の日本と海外の違い
減価償却費を使って大赤字を発生させることがこのスキームの肝です。
減価償却費は建物に対してのみ発生し、土地の購入費用は減価償却できないため経費になりません。
そのため、建物部分が大きく取れれば減価償却費を大きく計上することが可能です。
例えば、5,000万円の不動産を購入したとしましょう。日本では土地と建物の割合は一般的に5:5または6:4ですが、例えば米国不動産では2:8から3:7程度になることが多いです。
つまり、建物の購入金額として計算される金額は海外不動産の場合は約3,500万円~4,000万円となり、減価償却費を大きく計上できます。
しかし、日本の不動産の場合、建物の購入金額はいいとこ2500万円程度です。
海外不動産の特性
海外不動産は築年数が経った物件ほど価値が上がる特性があります。
これは日本と異なり、文化の違いによるものです。
最近では日本の不動産もやや流れが変わってきていますが、一般的に日本では新築時の価値が最も高く、築年数が経つほど価値が下がります。
しかし、海外では築年数が経った物件が高額で取引されることが頻繁にあります。
節税効果の具体例
築30年の5,000万円の米国不動産(土地1,000万円、建物4,000万円、木造)を購入した場合を考えましょう。
減価償却費を計算するうえで、まず確認しなければいけないのは、その物件の耐用年数です。
耐用年数というのは、簡単に言えばあと何年使うことができるか、という年数です。
税金計算で使用しなければならない耐用年数は、国税庁で細かく定められており、木造の新築時建物の耐用年数は22年です。
ただ、この年数はあくまで新築物件に適用される年数であり、中古物件に適用される年数ではありません。
中古物件については、特殊な計算をするのですが、今回のように耐用年数が過ぎ去ってしまった場合、新築の耐用年数×20%をその物件の耐用年数を使用することができます。
今回のケースだと、すでに30年を経過しているので、国税庁が定めた耐用年数の22年を過ぎています。
したがって、耐用年数は4年(22年×20%)と計算できてしまうのです。
その結果、建物部分の減価償却費は1,000万円(4,000万円÷4年)と計算されます。
節税効果はどのくらい?
このスキームは個人で使用することは禁じられておりますが、過去、どのくらいの節税効果が存在したのかを計算してみましょう。
例えば、年収5,000万円の方が米国不動産を購入した場合を考えます。
まず、年収5,000万円の方の税率は所得税45%、住民税10%です。
この場合、1000万円の経費を作ることで、単純計算で所得税450万円、住民税100万円の減税効果を期待することができます。
そして、この効果は4年間続きますし、不動産の数や金額を増やせばより効果は上がっていきます。
実際の市場での不動産価値は下がるわけでもなく、これだけの節税効果が期待できることから、高額所得者が非常に好んだ節税方法だったわけです。
税率が高い高額所得者のみに許された特権と言っても過言ではありません。
現在できること
この手法は現時点では個人の利用はできませんが、法人であれば利用可能です。
法人税率は所得税の最高税率よりも低いため、効果は個人ほど大きくありませんが、それでも一定の効果があります。
法人の代表者で海外不動産に関心がある方は検討してみてもよいかもしれません。